国道418号 達原トンネル廃道 その6

その5からの続きです。

それではここから先は、資料でこの道路とトンネルの状況を振り返ってみましょう。
まずは地形図で、被災前とトンネル開通後を比較します。

国土地理院発行 1:25000 「横道」 (平成13年7月発行) より引用

こうしてみると、海集落の周辺はかつての堰止湖の名残りなのか川幅が広いですが、崩壊区間では急激に川幅が狭くなっています。
そのことにより、豪雨時には恐らくこの渓谷部分に急激に大量の水が集中し、崩壊しやすい地質の地山からの地すべりと相まって、土石流となって圧倒的な破壊力で道を押し流して行ったものと思われます。最後の崩壊の箇所は上流から比べると川幅はいくらか広がっていますが、地形的にちょうど川の流れが突き当たるような形になっているため、水流の直撃を受けて削り取られたのでしょう。

国土地理院 地理院地図より引用

現在の状況です。薄く赤いラインを引いた部分が達原トンネルです。
旧道については比較的状態よく残存している下流側の廃道区間は道として描画されていますが、崩落地で何の予兆もなく途切れてしまっています。

トンネルを達原側から海側へ入ってすぐの状況です。
最近の高規格なトンネルにしてはカーブがきついように思えます。地形図からもわかるように、トンネルは下流側最後の崩壊部分を避けるような線形を描いています。
達原側坑口と海側坑口には約70mの比高差があるため、平均7%の片勾配となっています。

壁に水平に取り付けられた消火器と路面を比べると、そこそこの上り勾配になっていることが分かるかと思います。

 

上矢作町では、豪雨災害の翌年2001年に、その2で引用した「恵南豪雨災害記録誌」を編纂していたため、2008年発行の「上矢作町史」では豪雨災害については記録誌の内容を要約するに留められています。
また、「道路・交通」の項でも町内の他の改良区間については紙面を割いて紹介していますが、本道については言及されていません。しかし、トンネル開通時の写真だけは掲載されていたので引用いたします。

上矢作町史 通史編(2008年3月 上矢作町史編纂委員会編 岐阜県図書館蔵) 575ページ
(第5部:現代 第一章:政治・行政 第2節:町民生活の充実 四:道路・交通・通信 1:道路交通) より引用

坑口の様子からして、下流の達原側でテープカットが行われたようです。

 

「恵南豪雨災害誌」によると、この豪雨での道路被害については以下のように記されています。
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■国道道路被害

国道257号、418号、主要地方道瑞浪・上矢作線、県道月瀬・上矢作線など全路線が交通止めとなった。
(中略)
特に国道418号海地内では約820mに渡って道路が流失したのをはじめ、高井戸から海までの約9kmの間で40ヶ所、延べ1,840mに渡って道路が決壊するなど、壊滅的な被害を受けた。

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恵南豪雨災害記録誌(2001年10月 上矢作町役場企画課編 岐阜県図書館蔵) 9ページ
(第3章:恵南豪雨災害の被害状況 3:道路・河川被害) より引用

あまりに崩落がひどく進むのに難渋した上に写真を撮影しながら行きつ戻りつしたとはいえ、歩きとおすのに2時間近くを要したため廃道区間は非常に長い距離があったように感じられましたが、実際には800mほど、下流側の道が残存している部分を含めても1.4kmほどの短いものでした。
裏を返せば、その僅かな距離でさえこれほどの被害が発生しているのですから、町内全体での被災状況は想像に難くありません。

実際の被害状況についても、記録誌にとりまとめられています。記録誌では簡易水道や下水道被害についても記述されていますが、ここでは水道関係を省略し、道路・河川に関わる被害箇所と金額をご紹介いたします。

■被害状況

上矢作町 岐阜県 合計
箇所 金額 箇所 金額 箇所 金額
河川 33 677,364 42 3,985,064 75 4,662,428
道路 39 374,352 48 3,128,971 87 3,503,323
橋梁 9 388,326 6 94,726 15 483,052
砂防 7 45,560 7 45,560

(単位:千円)

道路だけでも87箇所35億円、河川・橋梁・砂防と合わせると実に184箇所86億円という非常に甚大な被害となっています。

河川被害としては、上村川では全線にわたり護岸が決壊・流出し、被害延長は10km以上、矢作川(根羽川)、飯田洞川、木の実川など他の河川でも護岸決壊等の大災害となっています。
道路は先に引用した国道被害以外にも、町道でも21路線、延長1,800mで路側の決壊や流出するなど河川沿いの被害が甚大でした。
橋梁は上村川に掛かる中越橋、島橋や中部電力の吊橋など6橋、その他の河川で4橋が流出、他にも多数の橋梁が通行不能となったことにより、孤立地帯が生じるなと救助・復旧にも大きな支障が出ました。

規模の大小こそあれ、このような土砂災害がこの廃道区間だけでなく、町内の各所で発生していたのです。

国道418号については、記念誌が刊行された2001年時点で、下記のような注意書きがされています。

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■国道418号 上矢作町 横道~達原の通行について

本路線は引き続き被災箇所の上矢作町横道~長野県境まで通行禁止区間です。
ただし、横道~達原については、達原地区の孤立解消のため応急仮工事により、平成12年9月19日午前7時以降当分の間、次の条件により通行を認めます。

1. 通行車両は達原地区住民車両、緊急輸送車両、その他関係車両に限る。
2. 普通車以下とする。(大型車両通行禁止)
3. 日没以降夜間、降雨時及び降雨後は通行禁止とする。
4. 通行に際しては、落石、路側崩壊等に細心の注意を払うこと。
5. 落石、路側崩壊等異常を発見した場合は、速やかに恵那建設事務所又は、上矢作町役場に連絡すること。

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このように、仮復旧したとはいえ不安定な状態が継続しており、道路開放においても細心の注意が払われていたことがわかります。
達原から先の海、そして長野県との通行の再開は、2003(平成15)年の達原トンネル開通まで待つことになりました。

 

その1にて愛知県名古屋市で2日間の合計降水量が567mmに達したと記しましたが、実はこの豪雨において最多雨量を記録したのは、この道のある荒峰山の峰を隔てた上村川支流にある建設省(当時)槍ケ入観測所でした。
その雨量は実に595mmに達し、9月11日23時から12日0時にかけての時間降水量は80mmという驚異的な数値を記録しています。その数値が示すこの区間の現実を目の当たりにすると、自然災害の脅威には謙虚に襟を正さざるを得ません。

近年では気象環境の変化からか、この数値さえ超える豪雨が発生する機会が稀ではなくなってきており、各地で災害の発生する頻度が高まっているように思えます。
こうした災害の現実をしっかり認識し、備えて行くことの重要性を改めて認識させられました。

(了)

 

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