常磐炭礦の通気口

いわき市の泉地区、川沿いにある住宅街の片隅に、不自然に柵で覆われた空き地が広がっています。
そのほぼ中心には、巨大な円筒形のコンクリート構造物が圧倒的な存在感を誇っています。

これはかつて周辺に広がっていた常磐炭礦の泉竪坑跡です。
一帯の地下には常磐炭田が広がっており、この立坑は坑道へ外界の空気を送り込む入気口だったそうです。

一見地味な立坑ですが、とある出来事がきっかけで全国的に注目を集めることになりました。
2011年4月11日から12日にかけて発生した東日本大震災の余震とみられる震度6弱の地震がきっかけとなり、この立坑から猛烈な勢いで温泉が噴出しはじめたのです。

噴出当初は高温の源泉がかなりの勢いで吹き上げ、周辺一帯は硫化水素の強い臭いが立ち込めました。

常磐炭礦周辺にはいわき湯本温泉が存在するなど元々地下に温泉水脈があり、斜陽化しつつあった採炭事業に替わる炭鉱労働者の受け皿として、採炭時には厄介者であった温泉水を利用して常磐ハワイアンセンターが設けられるなど、炭鉱と温泉は非常に密接な関係がありました。

既に炭鉱は閉鎖され、ハワイアンセンターはスパリゾートハワイアンズとして生まれ変わり、かつての記憶が失われつつあった時、地震という自然現象が、改めてその歴史を思い出させることになったのです。

住宅街から川を挟んで対岸、裏手方向より観察します。
立坑に隣接して、架設の覆いが設けられています。恐らく今回の温泉噴出への対策として何らかの設備が用意されたのでしょう。

ズームレンズで近寄って撮影してみると、水のようなものが流れているのが見てとれました。
こぼれた源泉が流れ出しているようです。

立坑の内部にも、新しい感じのするコンクリート構造物が見られます。こちらも噴出対策のために施工されたものと思われます。

覆いの部分から、太い管が裏手の川まで延びています。

管の先端は水没していますが、かなりの勢いで泡が立っており、温泉水が現在もなお大量に湧出していることが窺えます。
撮影している間も、周囲には硫化水素の臭いが風に乗って漂ってきていました。

今回の噴出は、地震という特殊な状況によって生じた事象ではありますが、炭鉱が稼動していた当時は、坑内では日常的にこのような危険と隣り合わせの環境で採炭作業が続けられていたのです。

そしてそうした先人たちの努力によって産業が発展し、いまの私たちの生活があるのだと思うと、襟を正さずにはいられません。

 

住宅街に隣接しており、施設周辺も立入禁止となっていますので、場所は記載いたしません。