国道153号旧道 伊勢神峠

名古屋と飯田を結ぶ飯田街道。現在も国道153号として三河と伊那の街々を結ぶ動脈として賑わっています。
伊勢神峠は紅葉で有名な香嵐渓のある足助から稲武へ向かう途中にある峠で、「伊勢神」の名は、この峠に伊勢神宮の遥拝所が設けられていたことにちなむものと言われています。

現道は1,245mの長大な隧道ですが、旧道は峠を現道から更に50mほど上り、308mの隧道で越えています。
まずは足助側の現道坑口を。

1,245mの新トンネルとは言え、開通は1960(昭和35)年。現在の交通量からすると非常に狭苦しく、大型車同士の離合にはやや難儀します。
そのため内壁上部は大型車の荷室が擦った跡が延々と続いています。私自身、かつて内壁に角を擦り付け、火花を散らしながら走るトラックの後ろについて走ったことがあります。ちょっと怖かった。

隧道手前にはドライブインがあり、旧道もここから分岐しています。いかにも旧道、という感じの佇まい。なお、隧道手前が広くなっているのは、開通時は有料道路でここに料金所が設けられていた名残です。

足助側はセンターラインこそないものの、比較的広めですれ違いも容易な道幅。旧道を外れた更に奥に大多賀という集落があり、そこそこの交通があることからか整備されています。

カーブをいくつか過ぎ、坂を上り詰めると見えてくる立派な石造の坑門。登録有形文化財にも指定されている伊世賀美隧道です。
元々は煉瓦造の予定だったものが、地質の関係でより強固な花崗岩造に改められたそうで、坑門も巻立もオール石造。

アーチ環は二重巻きになっていて、ただでさえ狭い坑口が更に狭く見えます。

扁額をアップで。伊勢神に「伊世賀美」の佳字をあてたのでしょうか。
扁額の下の帯石部分には竣工年の刻字があるはずなのですが、苔と草でよく見えません。

内部は照明が設けられていない、というか一定間隔で天井に取り付けられている物体が元々照明だったのか分かりませんが、とにかく一切の照明が無いので、昼でも真っ暗闇で照明がないと、折角の花崗岩の見事なアーチが全然観察できません。

そして心霊スポットなどという下らない風評のおかげで、行儀のよろしくない者が落書きなど許しがたい行為を行っているのが非常に残念です。

洞内は何度か幅員が変化します。一部後年の補強と思われるコンクリート巻立の部分もあるのが分かります。

稲武側坑口。どちらの坑口も両脇の電柱、街路灯、ポールが実に惜しいです。景観的にもう少しなんとかならんのか、と思ってみたり。

「伊世賀美」の扁額。

稲武側の道は、足助側とはうって変わって幅員が狭く離合が困難に。路上に枯れ葉や小枝などの堆積物も多く、明らかに足助側に比べて手が入れられていません。

谷側にはコンクリート製のガードや駒止めが設けられていますが、ガードはかつて渡されていたと思われる鋼管は軒並み消失し、コンクリート柱のみが空しく立ち並んでいます。

かなり気に入った光景。苔むした駒止めの先に急カーブ。いかにも旧道という佇まい。

傍らに石碑を発見。「昭和三四年 国災(県)第一七六四…」、「施工者 ****(判読できず)」の刻字。
昭和三十四年というと、伊勢湾台風でこの地にも甚大な被害が発生し、当時工事中だった現隧道では作業員の方が犠牲になるなど爪あとを残しており、その復旧に関係するものと思われます。
後から調べたら他にも年次の異なる標石がいくつかあったようなのですが、気がつきませんでした。

陽光を浴びる柱。美しい…。

暫く走ると現道に合流します。やっぱり現道も狭いです。
しかし交通量は非常に多く、交差点は見通しもよくないので、現道に合流するにはなかなかタイミングが掴みづらかったりします。

場所はこちら。


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