ちょっと風呂へ入りに行ってきた。

私にとって奥会津は春先に行くところです。
というのは、金山町の大塩にある大塩温泉に、毎年雪解けの季節にだけ湧き出す露天風呂があり、それに入りに行くのが目的でありまして。

この露天風呂は本名ダムのダム湖に隣接しているのですが、雪解け水が流れ込みダム湖の水位が上昇すると、それに伴って温泉が噴出孔から湧き出してくるのです。そして水位が下がると温泉の湧出も止まります。
時期としてはゴールデンウィーク前後の2週間くらいだけでしょうか。いつ出るか、止まるか分からないので大変希少度が高く、私も管理されている民宿のブログで状況をチェックしつつ、天候もにらみながらゴールデンウィークにはこの温泉に入りに行くのがここ数年の慣わしでありまして。

ちなみに春の様子はこんな感じ。

7月の豪雨で、この地方は甚大な被害を受けました。
大塩温泉も例外ではなく、この季節限定露天風呂も完全に水没しましたし、それどころか通常湖面から10mは上にある民宿も1階部分が床上浸水。すぐ下流にある国道252号線の二本木橋、上流の第七只見川橋梁が共に落橋してしまいました。

災害後、ここにダム湖を形成していた下流の本名ダムが、豪雨による堤体の影響を調査しないと改めて湛水することができないということで水門が開放されています。
そのため大塩周辺ではかつてない規模で只見川の水位が低下したのですが、それに伴い60年ほど前に本名ダム建設により水没したかつての共同浴場が水没後初めて姿を現し、有志の発掘作業によりなんと60年ぶりに入浴可能となったのです。

浸水被害に遭われた民宿の方が季節限定露天風呂とこの浴槽を管理されているのですが、お見舞いも兼ねて入浴するべく、11月4日の夜、自宅を出発しました。

仮眠を取りつつ夜通し高速道路を走り、会津坂下ICで降りたのが8時ごろ。
R252を上流に向けて走り始めると、次第に災害の爪あとが現れてきました。

駒啼瀬の旧道もかなり崩壊が進んでしまったりしているのでしょうね。道の駅から遠望する限りではあまり分かりませんが…。

そして会津宮下から先の只見線運休区間に入ると、いよいよ被害が大きくなってきます。

第四只見川橋梁。軌陸両用車が橋梁上で補修作業中。この辺りは復旧に向けて少しずつ整備が進められている印象。
会津川口辺りまでは先行して復旧しそうな感じでしょうか。

しかし川口を過ぎるとほぼ放置状態。

問題の本名ダム直下の第六只見川橋梁は、落ちたトラスの残骸も痛々しいまま、まだ何も手がつけられていません。

沿道の光景を眺めるにつれ、3.11の被害や福島第一の避難エリア、紀伊半島の水害など、今年この国を襲った災害の光景がフラッシュバックのように脳裏に浮かび、胸が苦しくなってきました。

国道252号は横田と大塩を結ぶ二本木橋が落ちてしまったので、横田の手前から迂回路へ。途中横田駅の傍らで只見線を渡りますが、3ヶ月列車の走っていない鉄路は雑草に覆われ、まるで廃線のような状態に。
恐らく復旧には数年を要することと思いますが、一日も早くここにまた汽笛か響くことを願って止みません。

辛うじて残ったお陰で大塩地区が孤立せずに済んだ四季彩橋。

あとで民宿のご主人、女将さんと一時間ほどコーヒーを頂きながら雑談したのですが、「あの橋ができた時は『あんな誰も通らないところに立派な橋なんて架けて』と言っていたのが生命線になった」、と仰っていました。
無駄な公共事業と批判するのは簡単ですが、こういう具体的な効果を目の当たりにすると、安直な批判はできないものだな、と思った次第。

その四季彩橋の上からは、いやでも第七只見川橋梁の惨状が目に入ります。

飴細工のようにぐにゃりと曲がった橋桁とレール。あの日この場所を襲った水勢の凄まじさが実感されます。

少し塞ぎ気味な気分になりながら、民宿へは9:30過ぎに到着。
ご主人に手土産と御見舞をお渡しして目的の風呂へ。

途中に見える季節限定露天風呂には土嚢が積まれています。

そして更に下の段、普段であれば湖底の水深5~6mのところに位置するのが、旧共同浴場が復活した「川原の湯」です。

浴槽の木枠などは60年前に水没した当時のままのものらしく、やはり何十年も水没状態が継続していた方が、保存状態は良いようです。
それが証拠にここが地上に姿を現してからまだ3ヶ月ほどですが、その間だけでも何度も浸水を繰り返し、基礎が崩れ始めたりしているとの事。

この浴槽の位置関係は、ここから第七只見川橋梁を遠望した写真で大体掴んでいだけますでしょうか。

ここの湯は鉄分を多く含んだ炭酸泉ですが、湯温は39℃程度で大変快適。ちょっと浸かっているだけで全身に気泡がまとわりついてアワアワになります。
源泉は湯船の底をはじめ、ほうぼうから湧き出しています。後から掃除のために一旦湯を抜いたときに撮った写真を見ていただけると、底からブクブク湯が噴出している様子が分かりやすいかと。

予定では一時間ほど浸かったら、あとは木賊温泉や湯ノ花温泉に入りつつ、道の駅などでお買い物をして夕方には塩原から東北道で帰路に着くつもりでした。

しかしあまりの快適な湯を堪能していたら、なんと13:00に。慌てて上がりましたが、その後さらに民宿でご主人、女将さんにコーヒーを頂いて雑談などしていたら、あっという間に14:00過ぎ。

丁重にお礼を述べて民宿を後にしましたが、予定分をそのまま消化するのは厳しいので、木賊温泉にちょっと寄り、その後はひたすら日の暮れた国道を走り抜け、塩原IC手前の千本松温泉で汗を流してから高速に乗って帰路につきました。

36時間1,200kmのハードな移動でしたが、行って良かったです。

もう雪も降るし、東北へは年内はこれで最後かなあ…。
はやくまた行きたいです。